白土三平の劇画「カムイ伝」、1964年から開始され、発行する雑誌も変わりながら延々と続きました。第1部第2部外伝と3部構成のものが近年小学館から全集として発行され、全38巻という膨大なボリュームのものが完結し、まとめて読むことが可能になりました。カムイとは主人公の名前、劇画では非人の子で忍者となり、抜け忍として負われる立場の男です。
私は、大学生時代に評判が高くなってから、途中のものを少し読んだことがあります。まことに断片的なものでしかありませんが、鮮烈な画像、するどい切り込みの内容に、目を見張った記憶があります。
今回全集発行を機会に、最初からある程度まとめ読みをする機会をもてました。たいへん雄大な構想と群像劇の面白さをあわせもった作品だったのだなということを、それで初めて理解できました。野心作でした。
田中優子という人がいます。1952年生まれの江戸時代の文化などの研究家で知られている人で、現在法政大学社会学部教授です。その人が「カムイ伝」を高く評価し、大学で「カムイ伝全集」を参考書にした授業を行っていました。2006年4月からだそうです。
何も知りませんでしたが、その講義内容を本にしたのが「カムイ伝講義」(小学館 2008年10月刊 本体価格1500円)でした。店頭にあった同書をたまたま手にとってわかり、読むこととなりました。
田中さんによると「カムイ伝の舞台は1650年前後から1680年ごろまでの日本」だそうです。(18ページ)
けっしてやさしい内容とはいえないのでてこずりました。でも読んで目からウロコの落ちる思いを味わいました。「カムイ伝」がじつにしっかりした資料の読み込みの上に、書かれた劇画ということをまず知りました。さらに、それから汲み取れること、考えを進めていけるはたくさんあることを、田中さんの熱をこめて語っていることで知ったことです。
私の持っていた江戸時代のイメージがまったく変わってしまいました。うすっぺらなものではなく、中味の濃い豊かな江戸時代像を繰り広げてもらったからです。そしてたくましい農民像も。「カムイ伝」はまことにふさわしい伝え方をしているようです。
大作「カムイ伝」にとりくむ、大学生以上の年齢の人の入門書としてもよいものかもしれません。「講義」のわからないところを、「カムイ伝」そのものでたしかめる、歴史書などで深める、さまざまな展開で使えるものです。
田中さんの熱い思いは以下のことからも伝わってきます。
「『カムイ伝』は時代を超えて、むしろいまのためにあるのではないか。私たちは歴史の中で、いったい何者なのかと問い、何ができるのかと考え、カムイはいまどこに住んでいるのか、と耳をすます。カムイはこの世界をどう見ているか、どう考えているか、カムイなら、どこで何を仕掛けるだろうか、と、私は考えをめぐらしている。(328ページ)
本の腰巻の宣伝の文章も刺激的でした。「カムイ伝」に目を通す機会を得たものとして、それははたしてどうかと、「講義」に関心を持たせる、なかなか挑戦的な文章です。
「『いまの日本はカムイの時代とちっとも変わっていない』競争原理主義が生み出した新たな格差・差別構造を前に立ちすくむ日本人へー。
江戸時代研究の第一人者が放つ、カムイ伝新解釈!」
読んでみて腰巻の文章はその通りと必ずしも思わなかった私でした。そう言いたくなる内容ということだったのでしょう。それもありというのが私のスタンスになりました。
以上 (UT) 081104
posted by kamuimintara at 14:57| ☁|
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