2008年03月13日

おすすめします 「ザ・レイプ・オブ・南京」(日本語訳)、「『ザ・レイプ・オブ・南京』を読む」

「The Rape of Nanking」は、1997年に中国系アメリカ人アイリス・チャン氏(1968−2004)によって米国で出版されました。15年にわたる日中戦争の中、1937年12月の日本軍による南京占領とその直後引き起こされたいわゆる「南京大虐殺」(南京事件ともいわれており以下南京事件とします)について、本格的に論じた英語圏でははじめての本でした。出版以来、多大の反響を呼び、現在ではすでに「古典」ともいえる評価と位置づけがされているそうです。アメリカではほとんど知られていなかった南京事件を広く知らせることにもなりました。アメリカの歴史教科書にも南京事件が記述されていく推進力ともなったそうです。

10年たった2007年12月(事件の70年後)、初の日本語訳「ザ・レイプ・オブ・南京」(同時代社)が出版されました。同時に解説・注釈書「『ザ・レイプ・オブ・南京』を読む」も。年明けに書店の店頭で見かけたのが私が購入するきっかけです。(以下、「訳書」と「解説書」とします)

訳者であり解説書にもとりくんだのは、1951年日本生まれの台湾系在日中国人2世巫召鴻(ふしょうこう)氏。本業は現在有限会社コーナンソフト代表ということで、本業のかたわら翻訳に取り組んだようです。巫氏の翻訳にかけた熱意はなみなみならぬものがあったようです。著者アイリス・チャン氏の伝えたかったことを、訳書、解説書の同時発行という形で巫氏なりに示しています。

英語で書かれた原書は切れ目なく出版され続け、日本でも入手は容易です。以前に私も購入し目を通しています。しかし私の英語力では大意や概要把握はできても、きちんと読み取るべき細部の正確な理解やましてやニュアンスの受け止めといったところまでは、なかなか到達できませんでした。もどかしく感じたものです。読み取り方がどうだったのか、参照確認するうえにも便利なものが出たとうれしく思いました。きちんとした訳業が感じられるものです。原書の堂々たる3部構成、エピローグの率直な指摘などよく理解できるものとなっています。ジョン・ラーベの再発見と掘り起こし、家永三郎氏の裁判闘争などへの明確な評価など、豊富多彩な内容に改めて著者アイリス・チャン氏の熱意と先見性に敬服させられました。

アイリス・チャン氏はこう述べています。
「私の最大の希望は、本書が他の文筆家や歴史家を啓発し、毎年、減少している南京の生存者の過去からの声が完全に永遠に失われてしまう前に、彼らの経験談を調査記録する活動を刺激することである。また、本書が日本人の意識を動かし、この事件に対する責任を認めるようになることを希望している。あるいは、こちらのほうが重要なのかもしれない。
本書を書くに当たって、ジョージ・サンタヤナの不滅の警句を肝に銘じていた。『過去を思い出せない者は、過去を刳り返すよう運命づけられている』。」(訳書 25ページ 序)

巫氏は、出版の動機などについても述べています。
「本書の翻訳版の出版にあたり私が最も望むことは、日本の読者が本書の真の内容を実際に読んで、それぞれに考えてくれることーーー」(解説書 14ページ 翻訳出版に至る経緯)
たいへん暖かな姿勢ではありませんか。いまや国際社会でもある日本だから巫氏のような立場の人も登場したのでしょうか。


この翻訳出版については、多数の人の理解協力がありました。そのひとり大阪教育大学教授山田正行氏は、解説書後尾の「解説 忘却への抵抗と良知の責務」で、両書の出版の意義、経過、原書出版以来の論争点への言及などをコンパクトに整理してくれています。それは読者に虚心坦懐に判断してもらいたいとの思いを著者翻訳者と共有しています。

南京事件とそれが問いかけるものにどうひとりひとりが応えていくか、それはどういう意味を持つのかに対する、正面からの提起です。
まさに「多方面の人士から出版を望まれていた本書(解説書 14ページ)」ではないでしょうか。結果として時間がかかりましたが、遅すぎる出版では決してありません。昨年来「従軍慰安婦問題」でアメリカをはじめとする各国議会で、日本政府の公式謝罪を求める決議が次々となされています。日中戦争中、第2次世界大戦中、今の日本人と日本政府とが、ふりかえりきちんと受け止めていくべき課題(南京事件にとどまらず)は、道半ばというべきなのですから。

ただ、解説書74ページ3行目の「藤原、東中野両者」とあるのは校正ミスで「藤岡、東中野両者」となるところでしょう。

以上 (UT) 080313
 
posted by kamuimintara at 14:50| 北海道 ?J| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめします。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする